2022.12.16

取材

ミッション経営を実現するチェーンストアオペレーションとマネジメント術

お話を伺った方

内藤 孝司 先生

医療法人る・ぷてぃ・らぱん

理事長

内藤 孝司 先生

永延 梨沙 様

医療法人る・ぷてぃ・らぱん

統括マネージャー

永延 梨沙 様

近年のクリニック経営の傾向として、クリニックのグループ化が増えてきており、開業後に分院展開を考える先生も多いのではないでしょうか。
分院展開で課題になりやすいのがマネジメントの難しさです。同一グループであっても1院ごとに独立したクリニックとして運営され、理念・ミッションが共有されないというケースも少なくありません。

愛知県の柊みみはなのどクリニックグループは、分院展開によりグループが拡大する中、スタッフ全体にミッションが浸透し、ミッションに基づいたクリニック経営に成功されています。今回は、グループを拡大していく中で、目指す方向性を明確にし、法人全体で意識統一をしているミッション経営のポイントを、理事長の内藤先生、統括マネージャーの永延さんに取材させていただきました。

1.柊グループの特徴

愛知県で9院を展開するグループ

柊グループは愛知県大府市、名古屋市にて耳鼻科、皮膚科、小児科など複数の診療科で9院を展開をしています。クリニックやホームページを訪れると、デザインは統一感のあるブランディングがされていることがわかります。

グループ全体のブランド下で、クリニックごとに個性的なキャラクターが設定されており、それぞれにコンセプトがあるそうです。

例えば、2022年に新規開業した柊みみはなのどクリニック大須は、内装が明るく、テーマパークのような楽しそうな雰囲気があります。コロナをはじめとして社会に暗いニュースが多い中で、子どもたちに少しでも明るい気持ちを届けたいという思いで設計されたそうです。

▲柊みみはなのどクリニック大須の内装

このような思いはしっかりと患者さんにも伝わっているようです。統括マネージャーの永延さんはクリニックの評判について教えてくださいました。

永延さん「柊グループは、どのクリニックもスタッフさんが優しく丁寧といった声を患者様からいただいています。また、見学にきてくださる医療関係者も多いのですが、子どもたちが院内で泣いていないことや、笑顔で来院することがすごいですねと言ってくださいます。私たちには当たり前のことになっていますが、実際に言っていただくと改めて私たちのミッションがグループ内でしっかり共有できているのかなと感じています。」

柊グループのミッション経営

柊グループにはミッション・医療理念・コアバリューが掲げられており、全員の行動指針となるミッション経営を行っています。

  • 使命(ミッション):子供たちの未来のために世界で一番ハッピーなクリニックを創る!
  • 医療理念:患者さんにスタッフにやさしいクリニック
  • コアバリュー:使命感・やさしさ・真摯さ・感動・思いやり・成長・知性

永延さんのお話からも、こういった考えがスタッフ一人ひとりに浸透していると感じられます。しかし、このようなミッションや理念は開院当初からあったわけではないそうです。

理事長の内藤先生に、理念やミッションがつくられた経緯を伺いました。

内藤理事長「開業後、最初のクリニックで患者数が増えるに伴い、スタッフ数も増えていきましたが、人数が増えるとどうしても考えが少しずつズレてしまうという経験をしました。例えば、システム化を進めようとしても、スタッフの賛同や協力が得られず、うまくいかないということもありました。そんなときにコンサルタントと経営の師匠に相談し、理念・ミッションをつくることをアドバイスしてもらいました。」

グループや医院全体で意識統一を図るために理念やミッションを掲げている医療機関も少なくありません。ただ、医療の特性上、”患者さんに寄り添う”、”思いやり”といった医療に対する姿勢が示されることが多く、どこか、誰にでも、どの医療機関にも当てはまる言葉になりがちです。

対して、柊グループではミッション・理念・コアバリューまで、自分たちの言葉として作りこんでいます。どのように理念・使命を作ったのか、その過程についてもお伺いしました。

内藤理事長「もともと、私自身が使命に感じていたのは”医師として人の命を守ること”でした。ただ、師匠には『それは医師なら誰でもそうだから、自分たち独自のものを持つべき』と教えられ、スタッフと考えることにしたんです。
医療機関は自己犠牲を強いられるような印象を受けることがあります。医者はそれでいいんかもしれませんが、一般のスタッフにそれが通用するかというと、そんなところで楽しく働けないですよね。だから僕の中ではみんなが楽しく働ける、ハッピーなクリニックを創るということを示しました。スタッフにも聞いてみると、さらに『子どものため』や『未来』という意見がありました。スタッフの意見も取り入れながら今のミッションが完成しました。」

理念・ミッションを作ったことによって、柊グループでは、スタッフの働く方向性が定まり、内藤先生も意識統一がしやすくなったと感じているそうです。

内藤理事長「理念・ミッションを定めたことで、何か新しいことを始める時も、ミッションにマッチしているからと共感し進められるので、混乱もありません。また、人材採用するときも、ミッションに共感して入職してくれる人が増えたので、グループを拡大するときも考えがずれにくくなっていると思います。」

しかし、単に理念・ミッションを掲げただけでグループ運営がうまくいく訳ではありません。さらにお話を聞く中で、柊グループのミッション経営を支える土台となるポイントが2つありました。

それは、”チェーンストアオペレーション”によるグループ運営と、自律的な組織にする”人材マネジメント”です。

2.安定したグループ運営につながるチェーンストアオペレーション

グループ内で統一された診療フローを構築

ミッション経営を掲げたとしても、分院展開を進める中で、各院の院長の考え方や診療方針によって、考え方や診療方法がバラバラになることも少なくありません。

柊グループでは、スタッフが1院のみで働くということではなく、各院を異動できる体制をとっています。各院での運営ではなく、グループ運営であることをスタッフ自身にも意識してもらうことはもちろん、人が循環することで組織としての新陳代謝も進みます。スタッフが異動できる体制をつくるために、各院での業務フローを一定にするという工夫をしているそうです。統一された業務フローについても内藤先生に伺いました。

内藤理事長「スタッフが異動する時に、業務がバラバラだと対応ができないので、システムにしろドクターのやり方にしろ、なるべく統一した方がやりやすいと思います。もちろん、医療というのは人の問題が多いものですから、完全な統一は難しいのですが、電子カルテやその周辺システムなど、ある程度統一できるものは統一しようとやっています。」

店舗間で統一されたシステムを導入し、業務フローを一定にするということは、飲食やコンビニなどのチェーンストアオペレーションでよく見られます。統一されることで、業務を属人化させずに安定したグループ運営につながります。さらに、ブランドを画一化させ、生活者にブランドイメージを浸透させることも期待できます。

永延さん「地域のグループ院ですと、お子さんは自宅近くで、親御さんは職場の近くで受診するなどライフスタイルに合わせて受診してくれる患者様がすごく多いです。」

永延さんはこのようにグループ院の強みを感じているそうです。どのクリニックでも同じ医療体験ができることが患者さんに伝わっており、柊グループとしてのブランド価値が患者さんに浸透しています。一度良い医療体験をした患者さんが、ライフスタイルに合わせてグループ内の他のクリニックを受診してくれることが増え、競合院への切り替えなども起きにくくなります。

グループフォーミュラリーによる生産性の向上

柊グループにはグループ内での医薬品の使用方針、フォーミュラリーが定められています。フォーミュラリーは病院や地域で医学的な妥当性や経済性を目的に定められることが多いですが、グループ院ではチェーンストアオペレーションの一部といえます。

医師の処方はそれぞれの経験などにより、同じ診断でも処方のばらつきがあるものです。クラークがカルテ入力を補助するとき、医師ごとに処方の違いがあると、診療する医師の特徴まで把握していなければいけません。フォーミュラリーが定められていることで、医師やクラークが変わっても同じように診療業務が行えます。

イレギュラーが減りスタッフが一定のパフォーマンスで業務を行えることで、医師も診療にフォーカスしやすくなり、診療業務全体の生産性が高くなります。

業務改善は1院でテストし横展開していく

チェーンストアオペレーションを採用しても、全てを一律に統一するというわけではありません。柊グループでは「子どものため」になることは積極的に改善しようという声がスタッフから上がってくるそうです。例えば、子どもが待たされてつらい思いをしないように、スタッフ主導で診療がスムーズになるような改善を実施したりと、ミッションが実践されていることがわかります。このような改善や新たにシステム導入を検討する際には、まずは1院で試験的に運用してみることも多々あります。

はじめから全院で展開するよりスモールスタートをした方がスピード感をもって柔軟に対応することができます。1院の運用でブラッシュアップされ効果が実証された後に、他の店舗でも導入を進めていきます。例えば、これまで柊グループは自動精算機を使用していましたが、一番新しい大須院ではセミセルフレジを導入し、スタッフの締め作業の負担軽減を図って新たに試しているそうです。

このように柊グループはチェーンストアオペレーションによる統一された業務フローのメリットを活かしながら、新しいことをコンパクトに試す面もあり、この両面をバランスよく使い分けています。

3.自律的な組織をつくる人材マネジメント

人材の店舗間異動を前提とした組織編成

柊グループは9つの分院を展開していますが、その分院を2つの本部で統括しています。正社員スタッフはどちらかの本部に所属し、本部内の各院を定期的に異動しています。各本部は統括マネージャーが取りまとめており、今回お話を伺った永延さんはそのお一人です。

スタッフが定期的に異動をすることで、スタッフ一人ひとりがグループ全体のことを意識してもらいやすくするメリットがあります。逆にスタッフが異動せず、1院を同じメンバーで運営すると、そのクリニック独自の考えややり方が出来上がってしまい、グループでの統一感が薄くなってしまいます。

実際に、永延さんは過去に次のようなデメリットを感じていたそうです。

永延さん「分院展開をした当初はスタッフを各院に専属にしていました。その時は、分院が本院からの意見を上からの指示として捉えてしまう印象があり、グループ全体に関心が向いていなかったように思います。」

このような状況が続いてしまうと、グループの意識統一が難しくなる上に、対立構造ができてしまうケースさえあります。柊グループでは各院の異動を前提とした体制を取ることで、グループ全体のことを意識しやすくしています。

お話を伺う中で印象的だったのが、コロナ禍でのオンライン診療導入時のエピソードです。感染リスクも考え、オンライン診療を始めようと決めた際、どのようなツールを使い、どういうフローで実施するかをスタッフが意見を出し合い、2日ほどでグループ独自のオンライン診療の仕組みを構築したそうです。

本部内で各院を定期的に異動する体制にすることで、スタッフ1人ひとりは、各院ではなくグループに属しているという意識が高まります。グループの一員であるという意識がミッションを実現するという思いを強くし、患者さんにとって良いことをしていこうという行動につながっていくのだと感じました。

採用時のポイントはミッションへの共感と接遇

柊グループでは、ミッションを掲げてから、それに共感して応募してくれる使命感のある人が増えたそうです。近年は、就職活動の中で、その企業がどのような社会的な使命を持っているかを重視する人が増えています。はじめから同じ方向を見た人を採用できることはミッション経営の大きなメリットでしょう。

内藤理事長「当院はミッションによって、スタッフが何のために働くかという意識が統一されています。もちろんスタッフが働く理由はみんなバラバラなんですけど、うちは使命に共感して入ってこられる方がほとんどなのでズレがないんです。みんなの方向性が一致しているんです。」

内藤先生もこのようにミッションに共感して入職してくれる人が多いと感じています。ただ、共感していれば良いという訳ではありません。採用時のポイントについても伺いました。

内藤理事長「まずは接遇を大事にしています。接遇はあらゆるサービスの基本で、手を抜いては良い組織はできないと考えています。採用の段階でその基本ができていない方は、採用するのは難しいと思っています。また、新卒採用も積極的にしています。新卒の方は当院のやり方や考えを吸収して長く働いてくれるので、多いときで年に10名ほど採用することもあります。中途採用をする場合は、ほかの業種を経験していたり等、新卒のお手本になるような人物であることを重視しています。新卒と中途採用を並行しながら、組織のバランスを取るようにしています。」

柊グループの組織図

働くスタッフもハッピーにする教育とキャリア形成

採用と同じく大切なのが、スタッフ教育やキャリア形成です。柊グループでは、新卒採用で入職するスタッフも多いことから、スタッフが一人の社会人・医療人として成長しキャリアを形成できるように、教育にも力を入れています。

内藤理事長「特に接遇の教育には力を入れています。スタッフ全員に参加してもらう接遇セミナーは年6回開催しています。また、講師と私とで作成した、当院独自の接遇テストがあるのですが、年2回はそのテストをスタッフに受けてもらっています。」

内藤先生は、今でもご自身が教育についてはトップで担当しているそうです。採用のポイントでもあった接遇については、特に力を入れて研修を行っており、サービスの基本が身につくようにされています。

研修制度以外でも、自主的に行動することの大切さを理解してもらえるように、内藤先生ご自身が積極的に勉強をしたり、クリニックの周りを掃除されたりと、自ら行動する姿勢を見せるよう心がけているそうです。

永延さんは柊グループの教育やキャリア形成について次のように教えてくれました。

永延さん「グループ経営であることで、スタッフも各院で経験ができたりキャリアアップができることで成長する機会を得られていると思います。当グループは他のクリニックに比べて正社員比率がとても高いのですが、研修なども多く実施されていてスタッフの成長にもコストをかけてもらえているように感じます。」

柊グループは1院に専属としないことで、グループ内で様々な経験をしてキャリアを形成できる体制になっているようです。

内藤先生は、そういったスタッフのキャリア形成をしっかりと考え、本部に教育や採用部門といった組織を支える間接部門に昇進ができるように体制を整えています。

内藤理事長「スタッフ一人ひとりがグループ内で成長していく中で、よりやりがいのある仕事につけるよう、グループも一緒に成長していく必要がある」

内藤先生はこのように考えられており、スタッフが成長しキャリア形成をしていくためにも、今後もグループを成長させていくという思いが伝わります。

柊グループでは、ミッション経営によりグループの屋台骨を強固なものにしていますが、お話を伺う中で、それを支える根幹はやはり「人」であるということがよくわかりました。

効率化できる業務は徹底的に効率化していくというチェーンストアオペレーションがスタッフ1人1人の心に余裕をもたせ、ミッションを実現していく行動を起こしやすくしています。そして、スタッフが店舗間異動をしていくことで組織の新陳代謝が可能になり、自然発生的に現場の改善点が見えやすい組織づくりをされています。

ミッションに共感してくれるスタッフを採用し、時間をかけて教育・研修をしてスタッフ1人1人のキャリアアップにも寄り添うことで、より組織が強くなっているように思います。

まさに、理事長の内藤先生がミッションを掲げた頃の「みんなが楽しく働ける、ハッピーなクリニックを創りたい」という思いが実現されていると言えます。

編集後記

これまでの医院経営において、ミッションのスタッフへの浸透については、あまり注目されることが無かったのではないでしょうか。
今回は理事長先生だけでなく、スタッフの永延さんにもお話を伺ったことで、スタッフ一人ひとりにミッションを浸透させることの大切さがとてもよくわかりました。
働き手も少なくなっていくこれからの医院経営では、患者にも働くスタッフにも選ばれる医院になる必要があると思います。
その中で、柊グループのミッション経営はとても参考になるのではないかと感じました。お話を聞かせてくださった内藤先生、永延さん、ありがとうございました。

※本ページに掲載している情報はすべて取材当時のものです。変更等が発生している場合がございますので最新情報はご確認ください。

かかりつけ医のDXを推進する
私たちについて

株式会社レイヤードは、医療者と生活者の共通領域に機能する「医療インターフェース」を研究・実装し、医療DXを推進する会社です。
医療をもっと、わかりやすくするために、
さまざまなプロダクトを展開しています。

レイヤードは受診動線を
トータルにサポートします

レイヤードのプロダクトは、それぞれが連携し受診動線における医療者と生活者/患者の接点すべてをサポートできるよう提供しています。
必要なパーツのみのご利用も可能で、他社システムとの連携も積極的に支援します。

layeredだからできること

  • 患者の受診動線を、レイヤードのプロダクトでトータルに対応することができます
  • 必要なパーツのみを単体、もしくは、組み合わせて利用することもできます
  • すでに導入している他社システムと連携して利用することも可能です

    (連携可能なシステムはお問合わせください)