2023.11.16

取材

医療の質向上のためのBtoBと分院展開
 ストレス社会に貢献する新たな医療インフラへの道

お話を伺った方

大澤亮太 先生

医療法人社団こころみ

理事長

大澤亮太 先生

開業を考えている先生や経営について悩む先生の中には、どんなビジョンを持ち、どのような戦略を行っていくべきか迷われている先生もいるのではないでしょうか。

クリニック経営では、明確なビジョンを掲げ、それに基づいた戦略を実行していくことが大切だと言われています。

医療法人社団こころみは、“ストレス社会に貢献するインフラになる”というビジョンを軸に戦略的な経営を行っているグループです。

グループとしての強固な理念を共有しながら、それぞれコンセプトの異なる7つの分院を展開しています。

今回は、分院展開の成功要因や今後の展望について、理事長の大澤先生にお話を伺いました。

1.こころみの特徴

7院を展開する総合クリニック

医療法人社団こころみは東京・神奈川で心療内科、精神科、内科を中心とした7院を展開しています。

分院展開する際に各クリニックが方向性を揃えていけるよう、グループの理念を重視されているそうです。

大澤理事長「とはいっても、理念が形だけになっては意味がありません。スタッフにはシンプルに、「自分たちの家族や友達を紹介できる医療を目指そう」と伝えています。そして運営サイドとしては、心身のストレス社会におけるプライマリケアの場として、社会インフラとして貢献できるような事業展開を目指しています。」

▲武蔵小杉こころみクリニック待合室

各クリニックはグループの理念に沿ったうえで、あえてそれぞれ独自のコンセプトを持って診療を行っています。

現在、主に以下の4つのコンセプトに分けられます。

【クリニックごとのコンセプト】

  • 「心と体をトータルでサポート」(元住吉院・武蔵小杉院・田町三田院)
    内科と精神科を併設することで、院内で連携しながら診療できます。
  • 「心の治療をワンストップで」(武蔵小杉こころみクリニック)
    総合的な心の医療を行うクリニック。
    薬物療法、カウンセリング、リワーク、TMS治療と様々なアプローチをワンストップで提供しています。
  • TMS治療「磁気刺激という新しい治療選択肢を」(こすぎ神奈川院・みなと東京院)
    うつ病の新しい治療法として、磁気刺激を使用したrTMS療法を専門的に行っています。
    大学と共同で治療成績を論文化しており、最近ではコロナ後遺症に対するRCTを実施しています。
  • 血液外来「血液に特化した血液内科・糖尿病専門クリニック」(​​上野御徒町院)
    専門性が高く病院でしか診れないことが多い血液疾患を、基幹病院と密に連携しながらクリニックで診療ができます。
    平日夜・土日に受診可能とすることで、患者の社会生活と通院の両立をサポートしています。

大澤理事長「それぞれのクリニックで力を入れている内容はバラバラですが、グループの基本の理念にかなってるかという部分で経営判断し、あえて事業ポートフォリオを分散させる戦略をとっています。それぞれに事業としての戦略がありますが、保険医療の先行きが不透明な中での情勢変化への備えもしています。総合クリニックとして魅力を高めることでグループとしての患者さんを増やし、LTVを高めていこうと考えています。」

「こころみ」なら「人安心」

こころみでは、医療者の基本にある「目の前の患者に対して、誠実な医療を提供すること」を大切にされています。

その思いは理念にも含まれている“「こころみ」なら「人安心」”というキャッチフレーズにも込められています。

大澤理事長「私達は家族や友達に紹介できるような質の高い医療を地道にコツコツ積み上げていくことを基本としています。「凡事徹底」それが本質で、医療の姿だと考えています。もちろん、1対1の医療体験はうまくいかないこともあるかもしれないですが、グループでフォローできるよう体制を整えています。患者さんには都度ご相談いただくことで、一緒に安心できる形をつくっていき、医療の質を保ちながら患者満足度を高めていきたいと考えています。」

2. 「ストレス社会に真に貢献できる社会インフラ」の実現のため医師から経営者へ 

経営に集中するために外来枠を4割に削減

大澤先生は、“ストレス社会に真に貢献できる社会インフラになる”というビジョンに向けて、安定的な組織の構築を図る一環として分院展開を進められました。

しかし、組織が大きくなるにつれ、経営者としての役割がより重要になると感じ、2023年9月より、外来業務の割合を減らし、経営に専念する方針へシフトされました。

開業時から通ってくださっている患者さんもいる中で、外来業務を減らし、経営に回ることは勇気のいる決断だったそうです。当時の心境について伺いました。

大澤理事長「正直、臨床医としての診療には自負もありましたし、経営面でもクリニックに貢献できているという安心感もあったのですが、それを手放して経営者としての役割に集中することにしました。これは経営者として覚悟をきめることになるため、かなり勇気が必要でした。やるべきことは果てしなく、臨床医中心のころより忙しく仕事をしていますが、トップダウンで進めていけることで様々な成果があらわれてきています。」

BtoBで医療の質を高める

大澤先生の経営理念の中で重要な要素の一つは、質の高い医療を提供し、広めることです。

しかし、現行の医療制度下では、数をこなすことが重視されがちで、質が評価されることは難しい側面があります。

そこで、こころみではBtoBのアプローチを通じて、医療の質を高める施策を進めています。

大澤理事長「私達はBtoBで、質が評価されるような医療を提供したいと考えています。例えばすぐに思いつくこととしては、企業の休職者の復帰支援をアウトソーシングで請け負えたらいいですよね。休職者の復帰をサポートし、生産的に戻すことは、企業にとって価値のあることだと思います。医療の知識や技術、体制を通して、私たちが作れる価値は様々あると思います。それをサービスとして訴求するものを作り、実際にマネタイズまでつなげていくのは、私にとっても新たな挑戦になります。」

3. 今後は精神科の新規開業を考えるドクターの開業支援・サポートも

分院展開において人の縁が成功の秘訣

分院展開は組織の安定性向上に寄与しますが、1つのクリニックで診療を行う場合と比べると、当然行うべきことは増えます。

診療業務に並行して、経営戦略の策定、マーケティング、人材マネジメント等の業務が必要になります。

また、段階ごとに、新たな課題が発生することも考えられます。

実際に、大澤先生も人材管理を含む多くの課題に直面されたそうです。

苦労を乗り越えたからこそ感じている、成功の秘訣を伺いました。

大澤理事長「私は分院を運営していく上で、人の縁が最も重要だと感じています。必要な人に必要なタイミングで出会えたことが一番の成功の秘訣です。そして人は環境で変わることを学び、内部統制を整えるために力を注いできました。その素地が整って様々な人が育ったいま、開業支援を通して良い医療の形を広げていきたいと考えています。」

開業支援している先生は非常勤で分院に勤務

こころみグループはこれから開業を考える医師へのサポートも行っています。

単に開業を支援するだけでなく、医師には設備の揃ったグループの分院で非常勤として勤務してもらいながら、開業支援を行います。

基本的にはミニマム開業を支援していくのですが、どうしても医療水準の限界がでてきてしまいますし、ミニマムだからこそ属人的になり、「人」のリスクが多くなるのをカバーします。

また、医師にとっても、安定した給与収入が確保されるため、開業初期の収入不安を和らげることができ、安心して開業ができます。

同時に、チェーン店でも採用されているドミナント戦略※を活用し、特定地域に焦点を当てた開院を行うことで、グループとしての経営効率を高め、地域内のシェア拡大につなげています。

※ドミナント戦略・・・特定地域への集中的な投資により、占有率や知名度において競合よりも優位に立つ戦略で、コンビニエンスストア等の出店時に用いられている経営手法。日本語で、集中出店戦略とも呼ばれる。

大澤理事長「昨今はコンビニ型メンタルクリニックが急拡大していますが、それがメンタルヘルスのインフラとなることへの危機感を覚えています。私たちは制度を活用して開業医としてのワークライフバランスを最適化し、グループ全体として質の高い外来精神医療体制を整えていくことで、社会的役割を果たしていきたいと考えています。」

お話をうかがう中で、こころみの経営戦略は、ただグループを大きくするというだけではなく、大澤先生の根本にある「医療の質を向上したい」「社会貢献したい」という思いが具現化されたものであることがよくわかりました。

まさに“人の縁”を大切にすることで、こころみの理念に共感する医師がどんどん増え、組織を大きくしていく、そんな経営をされています。

大澤先生は「開業の目的はお金のことも含め、自分の本音で考えることが重要」とおっしゃいます。

まずは、自分が何を目的に医療を提供していきたいのかを率直に考え、その目的に基づいて戦略を練ることがクリニック経営の鍵と言えそうです。

編集後記

今回は、多角的な分院展開だけにとどまらず、BtoBの戦略や開業支援など戦略的な経営についてお伺いしました。
全ての経営戦略が、「社会インフラを作りたい」という想いにつながっていることがひしひしと伝わった取材でした。
自分の手の届く範囲だけでなく、人の輪を広げながら社会に貢献する、経営者としての医療への関わりを近い将来考えられている先生方には、こころみの経営はとても参考になるのではないかと感じました。
お話を聞かせてくださった大澤先生、ありがとうございました。

※本ページに掲載している情報はすべて取材当時のものです。変更等が発生している場合がございますので最新情報はご確認ください。

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